茨城県那珂市にある、主に糖尿病や動脈硬化など、生活習慣に関わる内科クリニック(医院)です。

医療法人健清会

2008年9月6日~2008年9月7日
金沢歌劇座、エルフ金沢、金沢21世紀美術館

当院の血糖自己測定患者の実態
-日常生活における活用についての考察-

小野陽子、大槻朋美、佐藤千代子、道口佐多子、斎藤三代子、遅野井健

目的

血糖自己測定(以下SMBG)は、手技の簡略化や疼痛の軽減にともない、日常生活における血糖変動を知る手段として広く活用されている。当院では、自己管理評価の手段として、インスリン治療者に限らずSMBGを積極的に導入してきた。今回我々は、SMBGの測定値がいかに活用されているかを知る目的で対面法のアンケート調査を実施した。

方法

対象は、当院外来にてSMBGを試行中の2型糖尿病患者176例、男性102例、女性74例、平均年齢66.0歳、平均HbA1c7.0%、平均罹病期間13.7年、平均SMBG歴5.4年、インスリン使用者(インスリン群)97例、非インスリン使用者(非インスリン群)79例とした。患者から口頭で同意を得た上で、SMBG測定の実態(頻度、時間、記録)と測定結果による自己管理の振り返り(以下振り返り)の有無を調査した。さらに、調査結果と、治療法、HbA1cおよび合併症(網膜症、腎症、神経障害、動脈硬化)との関連を検討した。

結果

測定頻度について、全体では20回以下38.2%、20~39回41.0%、40~59回13.3%、60~79回4.6%、80回以上2.9%であり、治療法別では非インスリン群で20回以下が多かった。測定時間について、全体では朝食前85.8%、朝食後50.6%、昼食前50.0%、昼食後37.5%、夕食前63.1%、夕食後48.9%、就寝前19.9%であり、治療法別ではインスリン群で朝前および夕前の測定頻度が高く、夕食後の測定頻度は低かった。自己管理ノートへの記録を測定毎に行っていたのは64.8%であった。振り返りは68.4%で実施されており、その内容は食事48.6%、運動9.1%、食事と運動9.7%であった。振り返り有り群と無し群の合併症の頻度を検討すると、網膜症はそれぞれ56.4%、70.4%、腎症はそれぞれ39.3%、50.0%であり、いずれも振り返り無し群で多かった。なお、振り返り無し群54例のうち、66.7%がインスリン群であった。さらに、平均罹病期間およびSMBG歴はインスリン群でそれぞれ16.9年、7.3年であり、非インスリン群のそれぞれ11.0年、4.5年に比して有意に高かった。

考察

今回の検討において、振り返り有り群で合併症が少なかったことは、SMBGによって自己管理を自らが評価することが、その改善への努力を促進する可能性を示すものと思われ、SMBGの積極的導入の意義は大きい。しかし、インスリン群での振り返り有り群が少なく、その原因としては振り返りよりも血糖値そのものの意義が大きく、特に低血糖の対処に翻弄されることや、病歴やSMBG歴が長いことからの慣れによる可能性が考えられる。さらに、振り返り無し例では、自己の病状全体への意識も低下する可能性もあるため、個々の患者毎にSMBGの活用法を含めた適切な指導が求められると考えられた。

基礎インスリンの重要性と求められる特性
-1型糖尿病患者の使用感から-

道口佐多子、佐藤千代子、小野陽子、斎藤三代子、遅野井健

目的

1型糖尿病患者の血糖変動の一因として、インスリン製剤の薬効発現の変動が指摘されており、安定した基礎インスリン補充を目指した、溶解型の持効型インスリン製剤が注目されている。しかし、先行して発売されたインスリングラルギン(グラルギン)を用いても、良好な血糖コントロールが得られずに苦慮する患者は少なくない。そこで、基礎インスリンとしてNPHまたはグラルギンを用いて、血糖コントロールが不良の1型糖尿病患者の基礎インスリンを、最近発売されたインスリンデテミル(デテミル)に変更して、臨床経過の推移とともにインスリン製剤に求められる特性について検討した。

対象・方法

対象は、基礎インスリンとしてNPHまたはグラルギンを用いて強化インスリン療法を行っている1型糖尿病患者のうち、本調査の同意を得られた41例(男性28例、女性13例、平均年齢15.1歳、平均罹病期間15.1年、平均HbA1c8.1%)とした。患者からの聴取項目としては、NPHまたはグラルギンをデテミルに変更した後、血糖コントロールの変化についてどのように感じているか、低血糖の頻度と程度、またインスリン治療上重要視することの順位付け(血糖の安定、低血糖、注射回数、注射器具、注射時間)とした。これに加えて、問診データの中から、変更前後3ヶ月間の低血糖症状の有無と頻度、SMBG値の低値について、血糖コントロールの変動とともに検討した。

結果

(調査結果)血糖コントロールは、良くなった39.0%、悪化した22.0%、変化なし39.9%であった。低血糖頻度は、43.9%が減少した、13.3%が増加したとし、その程度は、31.7%が軽くなった、4.9%が重くなったとしていた。日常生活での制限の変化については少なくなった19.5%、多くなった14.6%で、インスリンに対する満足度の変化は、満足29.3%、不満足12.2%であった。また、インスリン注射を行う上で重要視する順位については、1番が血糖の安定80.5%であった。上位2項目をみると46.3%が血糖の安定で次いで低血糖の頻度26.6%であった。次に、問診時の聞き取り調査から実際の低血糖有無は、変更前73.2%、変更後61.0%で差は認められなかった。そこで、月6回以上の低血糖の自覚とSMBGのデーター上の低値をみると、変更前46.7%、73.2%から変更後16.0%、7.3%といずれも有意に減少していた。

考察

1型糖尿病患者においては、インスリン治療そのものは受容はされているが、日常生活における予期せぬ低血糖は恐怖であり、日々の血糖値のバラツキがQOLを低下させていることが伺えた。そこで、デテミルは、グラルギンに比して作用発現に変動が少ないとされており、低血糖を予測した摂食や低血糖への過剰な反応を抑制する可能性があるため、1型糖尿病にとって期待のできる基礎インスリンと考えられた。